ドラベ症候群と急性脳症

小児急性脳症診療ガイドライン2016 診断と治療社 第7章 その他の急性脳症 より抜粋
その他の急性脳症

  1. ドラベ症候群は乳幼児に発症し、発熱や高体温で誘発されるけいれん重積を繰り返すてんかん性脳症である
  2. ドラベ症候群では急性脳症の合併が稀ではなく、死亡することもある
  3. 重積発作を抑制することができてもその後の意識回復が悪い時は、急性脳症の合併を疑い集中治療を行う必要がある

 

  • 検査値の変化はある程度時間が経過してから出現するため、急性脳症を診断するには意識障害などの神経学的所見が重要
  • ドラべ症候群に合併した急性脳症に対する治療については、現時点では特異的な方法は知られていない。けいれん重積で発症するため発作の抑制を十分に行い、可能であれば持続脳波モニタリングを行って非けいれん性てんかん重積の有無を確認するのがよいと思われる。

 
【以下、患者会注釈】

  • ドラべ症候群に合併した急性脳症について、「異常言動を認めたり、二相性の経過を辿ったりする症例は皆無であった」という記載(p.109~110)があるが、当会では二相性脳症の診断を受け治療された患児が複数あった。
  • けいれん重積の後や抗けいれん薬持続投与時には意識の回復が緩やかであり、脳症による意識障害との判別がすぐには困難な場合がある。重積治療を幼少時から繰り返しているドラべ症候群の家族には、普段と異なる兆候をいち早く訴えて脳症の早期発見・早期治療につながった事例が複数ある。
    発作後の意識回復が思わしくない場合は、家族への聞き取りや脳症を疑った早期治療開始を希望する。

 

急性脳症について

小児急性脳症診療ガイドライン2016 診断と治療社 第1章 急性脳症の定義 より抜粋
急性脳症の定義

急性脳症の定義

Japan Coma Scale 20以上(Glasgow Coma Scale 10〜11以下)の意識障害が急性に発症し、24時間以上持続する

  1. ほとんどは感染症の経過中に発症する
  2. 多くは頭部CT・MRIで脳浮腫が描出される
  3. 脳炎・髄膜炎など他の疾患が否定される。意識障害は睡眠、薬物(抗けいれん薬・麻酔薬)の副作用、心因性発作ではない

小児急性脳症診療ガイドライン2016 診断と治療社 第1章 急性脳症の定義 より抜粋

急性脳症への有効性としてビタミンB1とビタミンB6とカルニチンの3剤併用がけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の発症リスクを軽減する可能性が報告されているが、ビタミンB6単独での有効性の報告はない。

急性脳症の治療

脳症の種類は色々あるが、その中からいくつかを抜粋する
小児急性脳症診療ガイドライン2016より抜粋
全身炎症反応による急性脳症

1.副腎皮質ステロイド

サイトカインストーム型では副腎皮質ステロイドの投与を考慮するとよい。できるだけ早期に

  • メチルプレドニゾロン30mg/kg/日 2時間かけて点滴静注 原則3日間投与
  • ヘパリン100~150IU/kg/日 持続点滴静注 パルス療法終了翌日まで(凝固亢進による血栓予防として)

 

2.ガンマグロブリンと血液浄化

サイトカインストーム型など炎症が病態に関与する急性脳症では理論上効果が期待できるが、エビデンスはない。

  • ガンマグロブリン製剤 1~2g/kg 点滴静注
  • 血液浄化療法
    持続血液濾過透析(CHDF)、血漿交換療法(PE)が行われる。また、CHDFと PEを組み合わせた体外循環血液浄化療法(EBP)の有効性も報告されている。

 

3.急性壊死性脳症(ANE)の治療

全身炎症反応(いわゆるサイトカインストーム)を主とする。
発症後早期にステロイドパルス療法を施行することが推奨される。
ガンマグロブリン大量療法については、現時点では有効性が証明されていない。
少数ではあるが、血液浄化を施行され予後良好であった症例が報告されている。
近年は脳低温・平温療法などの脳保護療法が少しずつ普及しつつあり、ANEの症例でも施行されることが予想される。

 

4.けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の治療

全身炎症反応(いわゆるサイトカインストーム)を主とする。
また興奮毒性と感染症(発熱)によるサイトカイン環境が相まって大脳皮質神経細胞の遅発性細胞死が誘発されると推定されている。
(小児急性脳症診療ガイドライン2016より抜粋)
けいれん重積を伴う急性脳症
特異的ないし特殊治療として十分なエビデンスの示されたものはない。

 

a)支持療法

けいれん重積状態による興奮毒性が病態として想定されており、けいれん重積をできるだけ早く止めることが肝要である。
AESDではearly seizure、late seizureともにsubclinical seizureがしばしば認められるため、持続脳波モニターが勧められる。
※フェニトインないしホスフェニトインはドラベ症候群において発作の増悪や群発を誘発する可能生があるため、使用有無については慎重に判断するのが望ましい(当会注釈)。

 

b)特異的治療

現状ではインフルエンザ脳症ガイドラインに準じてメチルプレドニゾロンパルス療法が施行される症例が多い。
インフルエンザ脳症ガイドライン

施行しない選択肢もありえる。本ガイドラインでは、メチルプレドニゾロンパルス療法の施行を妨げない。

メチルプレドニゾロン30mg/kg/日 2時間かけて点滴静注 原則3日間投与
・ヘパリン100~150IU/kg/日 持続点滴静注 パルス療法終了翌日まで(凝固亢進による血栓予防として)

 

c)特殊治療

●ビタミンB6

インフルエンザ脳症ガイドラインに記載されている特殊療法(脳低温・平温療法、シクロスポリン療法、フリーラジカル除去剤)に加えて、副作用がすくないビタミンB6投与が考慮される。

ビタミンB6:early seizure後3~36時間で1~1.5mg/kg/日(石井らの報告)

 

●脳低温療法

AESDへの進展を妨げ予後を改善しうる治療法として期待される。経験豊富な高次医療施設での施行が望ましい。小児の急性脳症における脳低温・平温療法に関する明確なエビデンスはない。また方法も確立していない。
1例として、体温を33.0~35.0℃に維持し、当初48時間を目安に冷却し、それ以降に時期をみて復温する。

 

●脳平温療法

AESDへの進展を妨げ予後を改善しうる治療法として期待される。経験豊富な高次医療施設での施行が望ましい。小児の急性脳症における脳低温・平温療法に関する明確なエビデンスはない。また方法も確立していない。
発熱を防ぎ平熱(36℃)を保つ常温管理療法である。

 

●シクロスポリン療法

血中濃度は100ng/ml程度で管理し、200ng/mlを超えないようにする。

シクロスポリン1~2mg/kg/日 持続点滴静注7日間以上

 

●フリーラジカル除去剤

エダラボン(ラジカット®)0.5~1mg/kg 1日2回静注 2日以上

 

●デキストロメトルファン(メジコン®)

シクロスポリン療法にNMDA受容体拮抗薬であるデキストロメトルファン(メジコン®)を使用し有効であったとの報告もあるが、症例数が少ない(n=4)。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23419470

デキストロメトルファン(メジコン®)2mg/kg/日 3~7日間 経口投与

初回のけいれん発作後できるだけ早期に開始するほうがより有効な可能性が高い。
(インフルエンザ脳症の治療戦略より)

インフルエンザ脳症の診療戦略